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カウンセラーの対談 「第33回「吉福伸逸の言葉」出版記念 執筆者座談会 <第1回>」
第33回 「吉福伸逸の言葉」出版記念 執筆者座談会 <第1回>
新海正彦 プロフィール
アウェアネスアート研究所主宰。吉福氏との出会いは1970年代後半、氏が教えていたサンスクリット語講座に参加したときのこと。20数年を経て再会して以後、晩年の10年にわたって氏のセラピーの現場を体験しアシスタントを務める。
2013年より向後善之氏、ウォン・ウィンツァン氏とともに「体験的グループセラピー」を開催。個人的には不定期で各種ワークショップ、セミナーなどを開催。中でも映像、音楽などを用いたライブパフォーマンスは、楽しみながら深い気づきがあると評価されている。
ウォン・ウィンツァン プロフィール
日本トランスパーソナル学会常任理事。ピアニスト、作曲家、即興演奏家。1949年神戸生まれ、1歳より東京で育つ。
19歳からプロとしてジャズや前衛音楽などを演奏。1987年 瞑想の体験を通して自己の音楽の在り方を確信、90年より超越意識で奏でるピアノソロ・スタイルでの活動が始まる。92年インディーズ・レーベル「サトワミュージック」を発足し、30タイトル近くのCDをリリース。コンサート、とくに即興演奏では、音の力でオーディエンスの深い意識とつながり、静寂な音空間を創りだす。
2005年に故・吉福伸逸氏に邂逅、トランスパーソナル心理学に傾倒する。以後、吉福ワークでアシスタントをつとめる。現在、吉福ワークの流れを継ぐ「体験的グループセラピー」を向後善之、新海正彦と、また、アートや創造性にフォーカスした「魂の表現ワークショップ」をウォン美枝子とともに行っている。
サトワミュージック ホームページ : www.satowa-music.com
新倉佳久子 プロフィール
臨床心理士。外資系企業勤務後、渡米。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)心理学科学士号。ペパーダイン大学大学院心理学修士課程修了。
帰国後、心療内科勤務を経て、現在、東京・恵比寿のカウンセリングオフィス「ハートコンシェルジュ」でカウンセリングを行っている。
東京都スクールカウンセラー、私学スクールカウンセラー、区の保健センターで思春期家族教室の講師を兼務。産業領域においては、産業医を中心としたメディカルチームの一員として中東、東南 アジア、オセアニア諸国で働く海外駐在員のメンタルヘルスケアにも携わっている。
向後善之 プロフィール
神奈川県に生まれる。石油会社での会社員生活の後、渡米。CIIS(カリフォルニア統合学大学院)では、統合カウンセリング専攻。
サンフランシスコ市営の RAMS(Richmond Area Multi-Services)他でカウンセラーとして働いた後帰国。現在、東京恵比寿のハートコンシェルジュでカウンセリングを行うとともに、アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理学大学院日本校で臨床心理学を教えている。
2013年よりウォン・ウィンツァン氏、新海正彦氏とともに「体験的グループセラピー」をファシリテートしている。
著書に『自分をドンドン傷つける『心のクセ』は捨てられる!』(すばる舎)、『人間関係のレッスン』(講談社現代新書)、「カウンセラーへの長い旅――四十歳からのアメリカ留学』(コスモス・ライブラリー)他。
座談会 第1回
向後カウンセラー(以下 向後): みなさん、今日は、どうも休みの日に集まっていただいて、ありがとうございます。「吉福さんの言葉」の出版記念ということで、執筆者で集まって、吉福さんの思い出話でもしようかと企画して、録音の準備もして、後でおこしてハートコンシェルジュのホームページに載せようと思っているのですが、大丈夫かなぁ〜?
一同:まずいところがあったら、カット、カット!
新倉カウンセラー(以下 新倉):じゃあ、とりあえず、カンパイ。お疲れさま〜!
一同:お疲れさま〜。
ウォン・ウィンツァン(以下 ウォン):(本が)できあがったばっかりだけど、第2弾もやりたいね。今回の本は、吉福さんのエッセンスを網羅している感じがあるよね。次は、ひとつひとつについて、さらに深くつっこんだのも書きたいね。
向後:気が早いね〜。でも、やりたいね。
新倉:ワークショップとかレクチャーで、たくさん録音したしね。でも、ちゃんと録音できてる?ワークのときなんか、レコーダーが蹴飛ばされてあっちにいっちゃったりしてたし・・。
ウォン:あのね、僕ミュージシャンだよ(笑)。けっこう良い音で入っているよ。
新倉:そうかぁ。じゃあ、ウォンさんの録音が一番頼りになるわね。
向後:さっきも言ったけどさ、話が飛ぶので、まとめるのが大変だったね〜。
新海正彦(以下 新海):背景がわからないとね。難しいよね。あの場で体験しないとわからないよね。
向後:あの(吉福さんの理論の柱となる)「心の4つのレベル」(※1)の話なんかも、3つ目までは説明したけど、4つ目になる前に他の話になっちゃったでしょ?
一同:そうそう。
向後:それで、後になってどっかで、ちょろっと4つ目を説明しているでしょ?4つ目は、Power of Becoming だよね。
ウォン:でも、言葉も毎回少し違っていたりするしね。Power of Becoming は、Power of Dance とも言っていたしね。
新倉:あの場にいない人が聞いたら、違うものかと思っちゃうわよね。
ウォン:参加していないと、わからないかもしれないよね。
新倉:流れがね。
向後:参加しててもよくわからないこともあったけど・・。
一同:笑。
新倉:今回の本、帯を書いてくれた藤田博史先生(精神分析医)も、何度も読んでくださって面白いって言ってくれました。
一同:ありがたいよね。
向後:しかし、今回の本の中の第一章の「吉福伸逸の軌跡」を読んでみると、吉福さんの人生って、一粒で何度も美味しいっていう人生だよねって改めて思った。 だってさ〜、まず、岡山から早稲田の高等学院に進学してって言うことだから、賢かったんだよね。超優秀で頭よくてということで入って来たんだろうけど、入ったらジャズに没頭して、結局早稲田大学辞めちゃったわけでしょ。それで、アメリカ行ってプロのミュージシャンになって、それを辞めてサンスクリット語をやって、次はセラピストになっちゃったわけでしょ。それで日本にトランスパーソナル心理学を持って来たかと思うと、それも辞めてハワイに行ってサーフィンで、それから再び日本でワークショップをはじめて・・というわけだから、吉福さんの言っていた「アイデンティティの破壊は存在の力を強くする」にも通じるのかもしれないね。いや、待てよ?自己正当化で言っていたのかな??
一同:笑。
ウォン:僕から見ると、全部を含めて何か焦燥感の中で求め続けていたっていう感じがあるな。彼は、自分をアーティストと規定しているところがあるのだけど、「そのベースにあるのは飢餓感だ」ということは、よく言っていたね。
向後:そう言えば、早稲田大学時代の写真が、増上寺でのメモリアルのとき出てきたけど、あの写真なんか、すごくストイックな顔しているよね。「あー、悩んでいるな青年」っていう感じの顔しているじゃない。
ウォン:彼の人生を見ていると、好き勝手やったのはそうなんだけど、焦燥感と飢餓感の連続だったんじゃないかなという気がする。アイデンティティの崩壊ということに関して言えばさ、ジャズを突き詰めていって、どうしても聴き取れない音があって、壁にぶちあたったというのは事実かもしれないね。ヤン・ハマー(※2)ね。
一同:そうそう。
ウォン:たぶん、ヤン・ハマーというのは、あのころ鼻高々のオレ様状態のミュージシャンだったんだよ。
新海:だって、吉福さんとやっていた頃から2年後にマハヴィシュヌ・オーケストラでバリバリだったわけでしょ?もうすっごい、ピーク状態の時だよね。
ウォン:伸び盛りの頃のね。
新海:親はハンガリーの音楽家で、ヤン・ハマーは生まれながらの音楽一家育ち。もうサラブレッドだよね。マハヴィシュヌ・オーケストラってさ、超絶技巧の人が集まっているところなんだよ。たとえば曲が始まると、もう最初から、みんなでわ〜って感じのスゴいことをやりはじめて、それを曲の最後までやっちゃうっていう超絶技巧の人たち。ヤン・ハマーはその中に若くしてポンって入って、すぐ世界ツアーに出ちゃうような人だからね。
ウォン:そのヤン・ハマー(とセッションをして?)その音を聴いて、吉福さんは音楽的に何が起っているのか理解できなかったんだよね。そこで、スゴい挫折感味わったんだろうね。
向後:最近読んだアメリカの超短編の小説「ジャズの王様」(※3)の中でさ、日本人の若いジャズミュージシャンの話が出ていて、それがさ、ものすごい才能があってわっと出て来て認められるんだけど、もっとすごい才能のある人の音を聴いて鼻をへし折られて挫折するというのがあるんだけど、あれって、ひょっとして吉福さんがモデルなんじゃないかなって思った。
一同:へー。
向後:そこで、僕の妄想が働くんだけどさ。アメリカのジャズミュージシャンの間でさ、「昔若い日本の才能のあるベーシストがいて、それが挫折して、今セラピストになっているらしいよ」なんて噂があって、それを聞きつけた作家が、ミュージシャン達に取材して小説にしたのかもしれないなんてね。もし、そうだったら、吉福さん、うれしいだろうな〜。
新海:今思ったんだけどさ、ヤン・ハマーがヨーロッパ人じゃない?黒人じゃなかったじゃない?黒人じゃないヤン・ハマーが、ジャズという黒人の世界の中でガーッといっちゃっているのを見たら、衝撃だよね。アジア人として。
ウォン:マハビシは、ほとんど(そういう超絶技巧を持っている)白人だったんだよね。その中にジョン・マクラフリンていうのは早弾きの大将なんだけど、コンプレックスがある。超絶技巧を持っているんだけど、自分にはハートが無いっていうんだよね。
新海:ペイント・イット・ブラックだよ。黒く塗れ(※4)。不安だから緻密に全部埋め尽くす。マハビシは全員で埋め尽くしていくの。
ウォン:そのミュージシャンは、マイルス・デイビスが神様だったの。それで、マイルス・デイビスも可愛がったんだよ、そいつを。それで、ジョン・マクラフリンに一言。「へたくそなロックミュージシャンみたいに弾け」ってね。
向後・新倉:う〜、かっこいいね!
ウォン:かっこいいよね!マイルス・デイビス。そうしたら、その後出したアルバムの中で、ジョン・マクラフリンは、へたくそなの。弾き間違えたりしててさ。でも、いいんだよ。マイルス・デイビスというコンテキスト(※5)によって、彼はプロセスしたんだよね。
新倉:ここに持ってくるんだ!コンテキスト!そういう風に繋がっていくわけね。
ウォン:そう、だから、マイルス・デイビスのグループで演奏すると、自分のグループのときより良くなっちゃうんだよね。
向後:そういうところで、本気でやろうとしていたんだね、吉福さんは。
ウォン:吉福さんは、僕の知っている限り、かなりグレードの高いベーシストだった。
新倉:なんでわかるの?
ウォン:彼が、早稲田のハイソサイエティで演奏していた時の録音を聴いたんだよ。アメリカ、カリフォルニアかな?ツアーしたときレコーディングしたんだよ。テープが残っていてね。それを、くれたんだよ。きっと聴いてもらいたかったんだね。聴いたらすごかった。もうハイソサイエティを支えていたよね。
新海:そう、支えていたよね。
向後:そんなにすごかったんだ。
新海:CDあるよ。
向後・新倉:欲しい!
ウォン:その演奏は、良かったよね。このぐらい演奏できれば、日本でトップ。
新海:ハイソサイエティに入ったんじゃなくて、ハイソサイエティがオファーしてフューチャリング吉福みたいな感じだったらしいね。それで、アメリカ行ったんだよ。
新倉:へー、そういうことなの!?すごいね〜。じゃあ、One of themという存在じゃなかったのね。
ウォン:ちがうんだよ。ああ、こういう演奏してたんだと思って、オレも評価したよ。でも、ヤン・ハマーたちとの間では通用しなかったんだろうね。
向後:でも、すごいよね。
新海:すごいよね。ボストン行って、プロとしてやっていたんだからね。
ウォン:でも、セカンドはなかった人だから・・。
一同:そうだね〜。
向後:岩手のベイシーだっけ、有名なジャズ喫茶の。あのマスターが吉福さんと会ったときうれしそうだったよね。東北でのワークショップのあと、吉福さんが行きたいって言うから、尋ねて行ったんだよね。昔の悪友が来た〜って感じで、懐かしそうだったね。
新倉:あのとき、吉福さんは、ベイシーのマスターともう1人のジャズ仲間に会うということにとてもこだわっていたんですよ。
向後:新倉さんに手配してもらったんだよね。注意欠陥傾向の僕じゃできないからなぁ。
新倉:どっか抜けるでしょ。向後さんだと。
一同:ははは〜。
新倉:「どうしても、行きたいんだよ」って、何度も言っていたから、「大丈夫です。何かアクシデントがあっても、平泉に行って新幹線の時間までに帰って来れますから」って説明したの。そうしたら、凄く安心して、「新倉さんが行程を組んでくれたのなら、大丈夫だ」ってね。
向後:僕だったら、危ないってことかい〜??
一同:笑。
ウォン:あの時代のジャズ仲間って、特別なんだよ。
向後:だろうね。ベイシーのマスターと吉福さんの顔見たとき、思ったもの。深い仲間なんだろうね。フューチャリング吉福だったのか・・。
新海:そうそう。
向後:だけど、早稲田時代の顔は思い詰めていたような感じだよね。
新海:ぐーっと追いつめていくような感じだったんだろうね。
ウォン:ゾーン状態だったんだよ。相当、追いつめているよね。だから、あの顔になるんだよ。でも、それは持続しない。そのアイデンティティは、持続しなくなるんだろうね。いつか破綻する。
向後:ジャズを辞めたことについては、もうひとつ言っているよね。
新倉:ニューヨークで演奏しているとき、強盗が入ってという話を聞いたことがある。仲間が撃たれて亡くなったって言っていた。
向後:そうそう。強盗が入ってきたときに椅子とかテーブルのかげに隠れたんだって。そのとき隣にいたメンバーが撃たれて亡くなったんだって。吉福さんは、「オレが死んでもおかしくなかったのだけど、なんでこの人が死んでオレが生きているんだ?」って思ったんだって。それもひとつのきっかけになって辞めたんだって言っていたな。
新倉:那須のワークショップで言っていたよね。「今まで、だれにも言っていなかったのだけど・・」ってね。
(つづく)
※1 心の4つのレベル
吉福さんは、心の構造を「Power of Brain(あたまの力)」 、 「Power of Emotion(情緒・情動の力)」、 「Power of Being(存在の力)」、「Power of Becoming(関係性)」の4つのレベルで考えていた。
※2 ヤン・ハマー
チェコ出身の天才的ピアニスト。1970年代前半に、マハヴィシュヌ・オーケストラでキーボードを担当。
後に、作曲した曲でグラミー賞を何度か受賞している。
※3 ジャズの王様
ドナルド・バーセルミ著、「Sudden Fiction 超短編小説70」P・シェパード/J・トーマス編に収録されている。
※4 ペイント イット ブラック
不安のあまり、強迫的に全てを黒く塗ろうとしてしまう状態のこと。「吉福伸逸の言葉」の中にも出てくる言葉のひとつ。
※5 コンテキスト
吉福さんはセラピストは、セラピーの中でコンテキストを提供する存在だと言っていた。