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カウンセラーの対談「第39回 向後カウンセラー、石井カウンセラー対談 <第1回>」
第39回 向後カウンセラー、石井カウンセラー対談 <第1回>
石井久恵 プロフィール
臨床心理士、歯科医師
歯科医療に携わるなかで、身体の症状には心の状態が深く関係していることに気づき、本格的に心理学を学び、臨床心理士になりました。
アライアント国際大学/臨床心理学大学院在学中から東京医科歯科大学での研修を経て臨床心理士資格を取得。精神科、心療内科で、10年以上カウンセリングを経験して来ました。気分や心の状態をつくり出すのは、考え方だけでなく栄養や代謝にも関係があることを知り、分子整合栄養療法を学び、食事や生活習慣を整えるお手伝いもします。また、カウンセリングの最終目的は未来に向かうことだと考え、NLPやコーチング、成功哲学も学んで来ました。
日本臨床栄養協会認定 NRサプリメントアドバイザー、米国NLP?協会認定NLP™マスタープラクティショナー
【石井カウンセラー著書】「ママが幸せになる魔法の言葉」(ブックウェイ)
インタビュー第1回
向後カウンセラー(以下向後):今日は、歯科医でありながら臨床心理士でもあるという石井久恵さんにお話を伺いたいと思います。今日は、よろしくお願いします。
石井カウンセラー(以下 石井):よろしくお願いします。
向後:歯科医師さんで、臨床心理に興味を持っている方はいますけれど、臨床心理の大学院で勉強して臨床心理士までとった人はあまりいないのではないですか?
石井:歯科医で心理学に興味を持っている人はすごく多いのですが、臨床心理士になったのは、今のところ私だけかもしれません。向後先生の教えているCSPPの学生、修了生で、歯医者さんはいましたっけ?
向後:一人いますね。これからも出てくるかもしれないですね。
石井:私は、夫と一緒に仕事をしているので、歯科医の仕事と大学院を両立できましたが、一人で開業している先生は難しいかもしれませんね。私は、東京医科歯科大で中村先生のもとで勉強したり、その後、精神科でカウンセリングの仕事をさせていただいたりしてきました。
向後:中村先生のところというのは、実習ですか?
石井:難治疾患研究所というところで、外来は精神科にその先生が出る時について行って、診察に同席し、その後私がカウンセリングをしていました。医師の場合、科にもよりますが、そのまま臨床心理士の受験資格がある場合が多いのです。でも歯科医師免許だけでは受験資格はありません。
向後:そうですね。
石井:歯科や耳鼻科など、首から上の診療科には不定愁訴が多いのです。ちょうど先週の木曜日も「歯科医療と臨床心理学」ということで講演してきました。私が心理学を学ぶようになったきっかけは、歯科医療だけでは症状が治らない患者さんに出会ったことです。
顎関節症の患者さんなのですが、口が開かないとか噛み合わせが気になると訴えるのです。噛み合わせが気になって気になって日常生活ができなくなってしまう人がいるのです。ちょっと噛み合わせが変わると顎が痛い、肩がこる、頭痛がするなど様々な症状が出て家から出られなくなったりすることがあるのです。噛み合わせを治す治療をくり返し、マウスピースでかみしめを調整したり、電気を通してみたり、いろいろするのですが、どうしても気になってしまうのです。どこが正しい噛み合わせがわからなくなってしまい、治療をくり返す。「この症状さえなければ」という思いで、歯医者さんを転々とするみたいなことが起こります。
歯科治療というのは、不可逆的な治療なので、治療をくり返せばくり返すほど、元々の噛み合わせが失われてしまうので、歯科医も患者さんも原因を求めて治療が続いてしまうのです。歯科医師というのは外科的な分野の医療者なので、症状が取れないのは噛み合わせに原因があると考えますし、治せないのは自分の医療が未熟だからだ、と考えて、患者さんが「治りました」と言うまで治療しようとするのです。こういう人たちの治療は何時間も何時間もかかって、しかも結果が出ないことがほとんどなのです。夫が噛み合わせの治療を始めると、それにかかりきりになるので、他の患者さんたちは、私が診ることになって忙しいし私もイライラしてしまうのですよ。(笑)そして、何回治療してもなぜ治らないのだろう、どうしたら治せるのだろうと考えるようになったのです。
向後:笑
石井:顎関節症は、精神的な要因が関係すると言われており、もしそうなら、心理的な面からアプローチしたら治せるのではないかと思ったのです。
向後:なるほど。
石井:症状があって原因がある。歯科医は当然ですが歯に原因を求めて治そうとする。でも治らない。もし原因が心理的な要因であるなら心理療法をやったら絶対に治せるに違いない!と非常に単純に考えたのです。それでカウンセリングを勉強始めたと言うのが、ことの発端です。
向後:勉強は、どのように始めたのですか?
石井:最初はカルチャーセンターなどでロジャース派を学び、傾聴共感がメインでした。まったく知らなかったので、受容共感傾聴というところからはじめて、あとは自律訓練法とか、手が暖かくなるというやつですね。そのあとTFTとか。噛み合わせが気になって日常生活もままならないような患者さんに「悩み事は何ですか?」と尋ねると、「悩み事は、かみ合わせです」ということになって、傾聴、共感すると、不定愁訴の話が延々と続くのです。全然カウンセリングにならないのです。
人間関係の悩みや、人生の悩みみたいなことは全く出てこないのです。それでTFTなら、ツボをタッピングすればいいので「かみ合わせが気になる」というテーマでも出来るのです。
100人ぐらいやりました。出てくる悩みは噛み合わせのことや、前の歯医者さんに対する怒りなど、そういうのしか出てこないのですよ。TFTをやると不思議なことにその人自身に変化はあるのです。前の歯医者さんに対してすごく怒りを持ってカリカリしていた人が、なんだかちょっとふわっとしたりするのです。でも症状は治りません。治らないので、もっとなにかないかと思って。CSPP(アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理大学院日本校)に進学したんです。私は心理学をきちんと学んでないから、カウンセリングができないんだと思ったんです。だったら、大学院に行って基礎から学ぼうと・・。
向後:えらいですね〜。
石井:CSPPの3年目に精神科で実習がありますよね。驚いたことにそこでは、ちゃんとカウンセリングになりました。患者さんが自分の悩みを話してくれて、大学院で習ったことがきちんと役立ちました。
向後:実習は、スーパービジョンを受けながら、かなりみっちりやりますからね。力はつきますよね。
石井:それがCSPPのプログラムのすごいところですよね。そうやって精神科ではカウンセリングは出来るようになったのに、やっぱり歯科ではカウンセリングになりませんでした。大学院の卒業が目前になっても歯科での対応の仕方はわからないままでした。そこで医科歯科大の頭頸部診療科という歯科の不定愁訴を扱う科で勉強させてほしいとお願いしたのです。教授の小野 繁先生は、医師で歯科医師でした。小野先生が、「僕の診療を見ていていいよ」と言ってくださって、月に2回ぐらい何年か診療の陪席を続けました。小野先生は歯科の患者さんを治療をしているはずなのに、口の中をほとんど見ないんですよ。内科の診療室のように机があって椅子があって、先生と患者さんが話をするのです。
向後:へ〜。
石井:私は、症状を治そうという思いにとらわれていたのですが、先生がおっしゃるには、「こうした症状の人には、治そう、治そうとして治療をくり返すことが落とし穴だ」とのことなのです。
向後:それは、どういうことですか?
石井:先生は、「治癒」に捕われるのではなく「寛解」という概念を持つことが大切とおっしゃったのです。症状を治すことばかり考えるのではなく、症状と付き合っていくように患者さんを指導して行くのです。例えば、若いころと同じようにがんばって仕事をしていないか、子どもが巣立ってしまったのに、それを受け入れられず、それが知らず知らずのうちにストレスになっている。でも、ストレスを心理的に感じるのではなく身体症状として出しているので、本人はストレスがあることに気づいていないのです。
心理的なストレスがどのように身体症状として発現するのか、そのメカニズムを先生は筋肉の緊張などから丁寧に説明していくんですよ。そうすると患者さんは、「あっ、そうか!」と気づくのです。「私の症状の原因はそういうことなのですね。また私、症状にとらわれていましたね。」と言って、ニコニコと帰って行くんですよ。「先生の話を聞くと納得して安心します。」と。私は、「治ってもいないのに、ニコニコ帰って行くなんてすごい!」と思いました。そして、説明しても「『でも、でも、でも』と言ってくる人たちは、いわゆる身体表現性障害や神経症だから、歯科医が診るものではない」と先生はおっしゃったのですよ。
向後:というのは、どういう意味ですか?
石井:歯科医のすべきことは、患者さんの症状の原因が口の中にあるかどうかを判断すること、もし症状に見合うような原因が口の中に見当たらない場合、心理的なストレスがどのように口のなかの症状として出るのかを説明することで、むやみに噛み合わせをいじってはいけないと言われました。心身症や神経症患者さんの場合、歯科治療をしないことが治療なんだと言われました。
向後:それが、さっきの「症状と付き合っていく」ということに繋がるんですね?治療しないで少し治っていくということはわかりますが、どうやってその不具合、顎関節症とかと付き合っていくんですか?
石井:先ほどお話したように、例えば、ストレスというのは大きな出来事とは限らない日常の些細なことの積み重ねにある、そしてそういう小さなストレス、デイリーハッスルと言ったりしますが、それが筋肉の緊張を引き起こして歯の噛みしめが起こる。筋肉の緊張というのは日々変わる。そして噛み合わせは歯ではなく筋肉の緊張によって日々変わるものだ、というような説明をすると、患者さんは、「だから私は毎日噛み合わせが変わるし、それでかみ合わせが気になっているのか」とか、歯を噛みしめことで何ともない歯でも痛むようになるというような説明をするのです。そして、それまではなぜストレスで歯が痛くなるのかわからず、悩んでいた患者さんが「だから私の歯は虫歯じゃないけど痛くなっているんだ」と本人の中でストレスと歯の痛みがつながって、そのとき患者さんは楽になるんです。
向後:ストレス要因には、患者さんそれぞれ、いろいろあるわけですね?
石井:例えば、義歯ノイローゼの人が、「義歯が大嫌いで、でも食べるためには義歯とつきあわなきゃいけない」と訴えるので、私が、「それって何かに似てませんか?」と聞いたら、患者さんが「姑に似ている」って言って!いつも我慢しているのですね、だったら思い切り入れ歯を投げてみよう!壊れると困るからクッションに向けて「エイ!」なんてことをやって、二人で大笑いしたことがあります。そうしたら、すっかり義歯ノイローゼがなくなっちゃったり。 そんな感じで、治そうとすることに歯科医と患者さん双方が捕われることがなくなりました。また症状が出たら、「症状がまた出始めたけど、最近なにかありましたか?」みたいに聞いてみるというようになりました。そうすると、患者さんが、「そういえば、・・」と、自ら気づいて悩みを話してくれるようになりました。
向後:まさに、ソマティック心理学(心身心理学)ですね。
石井:それでも解決しない人、「でも、でも、でも」って言ってくる人は、心療内科や精神科の診療分野になりますので、そうしたところを紹介するのです。四口のなかの症状と言えども、原因は歯だけではないこともある。歯に原因が見当たらなかったら、患者さんの心理・社会的なことまで含めて原因を探ってみる。「それを心身医学と言うんだよ」と教わりました。歯科医は普通、口の中だけを診ます。でも、どんな症状も、その人のストレスとか生活習慣とか食事とか、仕事の事とか、姿勢とか、いろいろなことは関わっている。「そうか!」と、思ったんです。で、それからは、虫歯も歯周病も口のなかだけでなく、心理・社会的な要因にまで広げて患者さんを診断するようになりました。
向後:そういう方法が役立った事例を教えてもらえますか?
石井:例えば、60代の女性で歯が痛くなる。いろんな歯医者さんで神経を抜いたり、顎の骨を掻爬する手術を受けても治らない。最後は抜歯しても歯の痛みが治らないので、隣の歯の神経も抜いてみる、でも治らない。という状態で来院するような場合。その人の生活背景を聞いて行きます。すると、仕事も辞めて毎日、一人で両親の介護仕事をしている。出かけることもままならないような状態で日々を送っている。そういうのは大きな出来事ではないけれど、終わりも見えないし、一人で抱え込んでいるのだから、大変ですよね。でも、本人は大変だと思うことに罪悪感を持っている。そこで筋肉の緊張が起きていることや、免疫力が落ちている可能性など、痛みとストレスとの関連性を説明すると、「なるほど、そう言われてみると・・」みたいに本人が気づくのです。そして、はじめて自分の生活を振り返ったり、自分の心に気づいたり、ということが起きて、歯医者に通ってくることは正々堂々の出かけられるのだから、それを楽しんでみよう、とか、散歩してみようとか、症状にがんじがらめの状態から、症状があっても出来る事を楽しむようになってもらうのです。そうしているうちに、気づいたら症状があまり気にならなくなっていた、ということが起きるのです。
向後:身体の反応から入っていくわけですね。
石井:噛みしめてブリッジが歯肉に食い込んでしまった例もあります。そういう人に、写真を見せながら、「これだけかみしめていたんですよ」と言うと驚かれて、「結構いろいろなことを我慢していませんか?」というと「そうなんです」という話になったりします。説明することが治療になるということがあるのです。納得すると生活を変えてみる、考え方を変えてみるという人たちが出てきます。こういうことが、つまり患者さんの生活を変え成長を促していくということが、心身医学なのだということを教わったのです。歯科医療におけるカウンセリングとは、こういうことなのだということがわかって、私の臨床は大きく変わりました。
向後:面白いですね。
石井:歯医者で、子どもが泣いてどうしようもないという状況があります。そうした子たちの歯を見ると虫歯でボロボロだったりするんです。歯の状態を見ると、「ジュース飲んでいるよね」とか、「食事よりお菓子がメインだな」とか、わかるのです。虫歯がたくさんある子の場合、お母さんが育児ストレスで悩んでいることが多いのです。そういうお母さんに、「ジュース辞めなさい、お菓子やめてご飯たべさせなさい」と指導すると、その場では、「はい」と言うんですけど、家に帰って、子どもが泣いてお菓子あげないとますます泣いてどうしようもなくイライラする。とりあえずお菓子あげれば泣き止むから、もういいやみたいなことになってしまいます。
向後:そういう患者さんたちには、どのように対応するのですか?
石井:お母さん対象にセミナーを開くことにしたのです。最初の子どもが産まれるまで、子どもに接したことがないという人達多いじゃないですか?8割から9割のお母さんたちが、子育て経験のないままに最初の子育てをすることになるんです。4ヶ月の子どもがいる人より、3歳の子どもがいる人のほうがストレスが多いということが私にはちょっとびっくりでした。私は、歯科医師なので、3歳以上の子と接することが、元々多かったので話ができるようになると楽だと感じていたのです。でも、多くのお母さんは3歳4歳になるとより大変なんですよ。しゃべらない子より。子どもとどう接すればいいのか全くわからないのだと思いました。
向後:最初の数ヶ月は共生期で、まだ非言語で母子が通じていて幸せな時期なんだろうけど、やがて分離・個体化期を経て、2歳ぐらいになると「テリブル ツー」って言われるぐらいに、いちばんしっちゃかめっちゃかになりますよね。その頃は大変ですよね。その後、幼稚園受験とかあるしね。
石井:子育てで苦労しているママの子どもほど、口の中がボロボロなんですよ。それで、なんとかならないかなと思ったのです。そういうお母さんに対して、普通は食事指導とかブラッシング指導をするのですが、聞く耳を持つ余裕はない。心の扉は固く閉ざされているだろうと思ったので、心の扉を開けようみたいなセミナーをやろうと思ったのです。
向後:すばらしい!
石井:それで、歯科と心理学と、あと食事の話、栄養素が身体にどういう影響をあたえるのかというようなことを混ぜたセミナーを始めました。「ママと子どもを笑顔にしたい」と。CSPPでの大学院の専攻は「家族と子ども」ですから!
向後:「はははの窓」と言うのですか?
石井:歯と母で「ははは」です。
向後:なるほど〜!
石井:お母さんが無理なく実践できて、育児に余裕が持てるようになって、そのことによって信頼関係を親子で築いてもらいたいなと思って、やりはじめました。
(つづく)