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カウンセラーの対談「第32回 うがわよしこ氏、向後カウンセラー対談<第3回>」

第32回 うがわよしこ氏、向後カウンセラー対談<第3回>

うがわよしこ プロフィール

米国アートセラピー協会公認登録アートセラピスト、EMDR Level1およびLevel2

デザイン職を経て渡米。ニューヨーク市スクールオブビジュアルアート大学院アートセラピー修士号取得。私立病院のデイセンター、州立精神病院の入院病棟、ブルックリン地区、クイーンズ地区二つの公立小学校等でアートセラピストとして個人、家族、グループセッションを担当する。ジューイッシュホームライフケアマンハッタン地区養護施設、および亜急性病棟に勤務しうつ、悲観になやむ高齢者への通年訪問型セラピーを実施。

 

インタビュー第3回

向後カウンセラー(以下 向後): 留学中、みんな、悔し涙を流したことがあるって言いますよね。

うがわよしこ(以下 うがわ):ありますあります。異文化に飛び込めば、誰もが通る道みたいですね。
ただ、そういった話はこっちにはあまり伝わらず、海外生活の華やかな面のみが強調されている印象もうけます。

向後:留学や海外勤務についての、ある種のイメージがあるみたいですね。

うがわ:「会社のニューヨーク支店があってかっこいい」といっても実際にはアジア人しか住んでいない町であったり。
ニューヨークは雑多なものを全部包み込む大きさがあるので、英語を話せない人も生きて行ける場所なんですね。

向後:そうですよね。サンフランシスコもロサンゼルスもニューヨークと同じように、英語しゃべれなくても生きて行けますよね。

うがわ:西海岸もそうなんですね。日系人街とかありましたか?

向後:あります。サンフランシスコの場合、ジャパンタウンと言いながら、コーリアンタウンでもあるって感じでしたね。例えば、日本の若い子たちとかが、ジャパンタウンあたりでたむろしているわけですよ。そこへ行けば、日本語が通じますしね。日本の食材も売っています。

うがわ:たむろしている若者たちで思い出しましたが、どうして大人たちはあんなに語学留学している若者に厳しいんでしょうね。
私は、自分探しという言葉は好きじゃないんですけど、人によっては自分のやりたいことが分からない時期があるのも自然なことかと思います。閉塞感があるから、とりあえず外国に行って、好きだった何かをしてみたいという方々のお話、今までかなり沢山聞いてきました。

向後:いっぱいいますよね。

うがわ:そうですよね。その人の人生の設計図はその人自身が描くものであって、正解はないはずなんですが。私はたまたまラッキーにもしたいことが明確だったため、そういった批判を個人的にうける機会はなかったのですが、「目的なしにふらふらと外国に行くなんて」と人生設計に迷って、これから試行錯誤してゆきたい人への風当たりはなんて強いんだろう。って驚かされました。

向後:それはもう、そのとおりですよね。僕は、アメリカに行って、人はそれぞれでいいんだということがより明確になりましたけどね。失敗する人達いっぱいいるけれど、彼らにも失敗する権利ってものがあるじゃないですか?

うがわ:そうです。自分がやりたくてやっていることですし、周りの人がいわなくても、失敗もちゃんとその人にかえってきます。

向後:ねえ?

うがわ:そんなに始めるまえから明確にやりたいことが見つかって、準備万端で・・なんてケースそう多くはないと思います。
迷いながら、行動しながら徐々に輪郭が現れて、形になっていくことがほとんどではないでしょうか。

向後:僕は、留学のためにお金もためたしさ、一応準備万端で行こうと思ったのですが、留学を迷っていたときに、とある有名精神科医に相談したんですよ。「留学しようと思うのですが・・」ってね。なにかアドバイスをいただけたらと思ったんですよ。そうしたら、「これからアメリカ行ってどうすんの?」と、一個と言われただけで、あとはなにもしゃべってくれなかったですね。まあ、だいたい批判的に言ってきますよね。

うがわ:分かります。

向後:他にも、会社やめて留学するなんて、バカじゃないのなんて言われたこともありましたね。

うがわ:(笑)ひどいですね....

うがわ氏向後:そのわりに、いざ留学すると、ニューヨークだサンフランシスコだっていうブランドイメージがあるみたいで、「楽しそうで、いいね」みたいな感じで、よく言われましたけど、そんなことはない。グズグズですよね。

うがわ:楽しいことばかりじゃないですよ〜(笑)。楽しいこともありましたけど、大変なことも、辛い事も今まで経験したことがないくらい沢山ありました。

向後:僕は、もうこわかったですね。卒業できないんじゃないかという恐怖は常にありましたね。

うがわ:私も思ってました。もう駄目かも、こんな膨大な量の課題、とてもじゃないけどこなせない。とか。

向後:卒業してしばらく悪夢で見ましたもん。僕がレポートを出そうとしているんだけど、間に合わないとか・・。

うがわ:それ、トラウマですね。最初の頃、努力している割には、あまり語学力ものびないし、全然芽がでなくて、どうしようと思うこともありました。
そんなときに、学校の先生が、「語学力は、ティッシュペーパーを1枚1枚重ねていって、毎日少しづつ積み重なっていって、最後にはボックスになるような時間のかかるものだ」と言ってくれて、それを聞いた時、パーンとはじけたような感じになって、「ティッシュペーパー1枚ぐらいのことだったら私にもできる」って思ったんですよ。

向後:すごい良い表現ですね。

うがわ:そうなんです。すごく勇気づけられて。今思うと当時は私も、外国にいけば最初の一年でペラペラ説を信じていたんでしょうね。

向後:そうそう、1年でネイティブスピーカーだよなんて言う人もいますけど、冗談じゃないですよね。

うがわ:がんばれば何でもできると思っていたんだけど、実際はがんばってもできないこともある(笑)。

向後:そうですよね!(笑)けっこう、僕もがんばったもん。だけど、全然だめで・・。僕は、妻と一緒に行ったのですが、がんばろうと思って、最初家の中でも英語で会話しよってことにしたんですが、1日で挫折でした(笑)。

うがわ:だめでしたか。

向後:だめだ、家の中では日本語にしようって話しになりました。ネイティブの人と話していると、ペラペラとしゃべられて、知っている単語なのに聞き取れないんですからね。夫婦で英語は1日で挫折して、でも、日本のテレビは見ないよと決めたのですが、それも1週間で挫折しました(笑)。

うがわ:でも、息抜きは必要ですね。

向後:日本のテレビうれしかったもの。週2回。土曜日、日曜日、時間が限られているんですけどね。

うがわ:見てたんですね。

向後:そのうち、日本のテレビのビデオを借りてきたり・・。慣れてくると、アメリカはアメリカでいいんだけど、それでも日本がなつかしくなりました。

うがわ:そうですよね。

向後:アメリカは治安が悪いですからね。

うがわ:はい。

向後:ニューヨークも怖いんでしょ?最近だいぶよくなったらしいけど。

うがわ:基本的には安全ですが、治安が悪いと言われている地域もまだあります。

向後:ワンブロック入っただけで、全然違いますからね。あと普段の生活でも、いちいち交渉しなけりゃならないというのが、めんどうだったですね。日本ではほとんどあり得ない、パイプのつまりとかがしょっちゅうあるし・・。その度に業者と交渉しなければならない。

うがわ:はい。でも、一番最初に英語の上達のきっかけになったのが、それでしたよ。電話で、とにかく、ず〜っと、ず〜っと交渉しなければいけない状況が。あれが、すごくよかったです。

向後:あ〜、その点は、英語上達にはよかったのかぁ。

うがわ:そう、トラブルに関しての電話の交渉と、迷子になって見知らぬ人に道を聞くことが、かなり語学の上達につながりました。家のトラブルも直してもらわないと住めないから、とにかく必死です。

向後:水浸しになったこともあります。日本だったら、そういうとき、「はい、すぐ行きます」って言うじゃないですか。アメリカだと、そうじゃなくて、なかなか来ないくせに、やっと来たら、ろくに調べもせずに、「アジア人はどうせご飯を食べてご飯を詰まらせたんだろう」みたいなことを言ってくるから、頭来るんですよね。あと、一番最初にびっくりしたのは、銀行がトラベラーズチェックを数え間違えたんですよね。

うがわ:すごいですね。日本ではあり得ないですよね。あとびっくりしたのは宅急便屋さん。9時〜5時で時間指定がなく、一日中まっていても来てくれない。
土日もお休みで、夕方も配達不可なので普通に働いてたり、日中外に出ているとまず受け取れない仕組みなんですね。なのに、わざわざお休みをとって待っても待っても...きてくれない(笑)

向後:僕は、交通機関に頭着たなぁ。サンフランシスコは、最も公共交通機関が発達していると言われているにもかかわらず、バスは、待てど暮らせど来なくて、来たと思ったら、5台いっぺんに来るんですよ。あれ、どこかでみんなでしゃべってたりして遅れたんですよ。

うがわ:バスは、寒空の雨の中40分くらいまっていたのに、やっと姿を現したと思ったら、停まらないで、走り去ってしまうことも...

向後:だから、ずーっとアメリカで生活するのはどうかなって、僕は思ってしまいました。

うがわ:やはり、旅行で行くのと、留学で行くのと、海外勤務で行くという期限付きのものと、一生そこで生きて行くというのは全然違うと思うんですよね。
法外な医療費の問題もありますし、永住するにはそれ相当の覚悟と体力がいると思います。

向後:僕もそうだなぁ。日本で職がなかったらどうしようとかいろいろ考えましたけど、やはり日本に帰ろうと思いました。幸いなんとかこちらに職があったから、ラッキーでした。

うがわ:帰ってきて日本の人のきめ細やかさや優しさに驚きました。

向後:電車もちゃんと来るし・・。

うがわ:食文化も発展しているし。

向後:ただ、みんな同じという価値観は、どうも慣れないなぁ。

うがわ:ええ。一度違う環境に身をおくと、違和感がでてきたり、新鮮だったりしますね。私も、なんとなく3度目の人生を歩いている感じがしています。

向後:3度目の人生・・。なるほど。もどってきても、海外に行く前の最初の人生に戻れないです。

うがわ:もどれないですね。やっぱり、少し図太くたくましくなっている部分もありますし。

向後:謙虚だったのに、僕もずうずうしくなりました。

うがわ:向後さんは謙虚だと思いますよ。

向後:ありがとうございます。でも、簡単に、「はい、そうですね」と言うことはなくなりましたね。「なぜ、そうなんですか?」とか、とか聞きたくなっちゃう。

うがわ:みんな言っているよとか、なんか変ですよね。あなたがどう思っているのかということは、「みんな言っている」というところに隠しちゃう。

向後:みんな言っているとなると、それが正しいみたいになってしまうのですが、そこに違和感を持ちます。アメリカだと、だれかが「みんな言っている」と言っても、「だから、なんなんだ?」ということになってしまいます。

うがわ:「それで、あなたの意見はどうなんですか?」ということになりますよね。責任の所在はいつもはっきりしていて、団体では無く、あくまで個人ですよね。

向後:その部分は、僕も大切に思っています。自分の意見を持つ、「私」を主語にして考えるくせがついたというのは、よかったと思う部分だと思います。みんながこう言っても、世の中がどう動いても、「自分はどう思っているのだろうか」と自問するようになりました。帰ってきて、14年たちましたけど、それは続いています。

うがわ:大事なことですよね。「私」を主語に自分の意見をもつことは、自分とは違う相手の意見を同じように尊重し、お互いに理解しあったり、妥協点を探せるようになることでもあります。それは誰かとの比較でもない、上下関係でもない、対等な横軸の関係ですよね。そんな柔らかな人間関係や視点を育てるためには、まず「私」個人の所在を見つめて、相手に伝え、対話のために開いていくことが必要なのだと。そういった大事な人生のレッスンは、確かに向こうの生活で教えてもらった気がしています。

向後:今日は、どうもありがとうございました。

うがわ:ありがとうございました。

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