さとう珠緒さんインタビュー2

向後: それから、キレる人の特徴があるのでお伝えしましょうか。
さとう: ああ。聞きたーい。すごく聞きたい。
向後: キレる人のパターンは、まず、こういう感じになる(背中を丸め下を向く)。キレる直前には、腕は内側に組まれて、肩が前に出てくる。卵形って呼ばれる姿勢になるんです。そして、大体キレる前は、指が変な形になるんです。
さとう: 指が変な形になるんだ(笑)気をつけよう〜。
向後: たとえば、こういう形(ジャンケンのチョキの形)とか、こういう形(手のひらを上に向けてボールを握るような感じ)とかね。そして、力が入っているので震えていることが多いんです。
さとう: どうしてそうなるんですか?
向後: それは分からないんです。
さとう: もう、これはパターンなんですね。
向後: パターンです。
さとう: 普段は普通なんですか?
向後: そう。全く普通なんです。
さとう: キレる瞬間だけ…。
向後:
キレる瞬間に段々段々イライラがたまり、そうなってくるんですよ。
それで、指がこうなったら…。
さとう: もうヤバイ。
向後: もうヤバイから、なんかちょっと…。
さとう: ちょっとトイレに逃げるとか…。
向後: そうそう。逃げた方がいいですよ。
さとう: 3時間位したら、また来るかな。
向後: もう、そのままずっと逃げた方がいいかもしれない(笑)。
さとう: 永遠に(笑)
向後: 指の動きが変になった後は、伏せていた顔をバッと顔を上げて、相手を見るんです。その後、いきなりパンチが来る。
さとう: こわーい。いきなり…。怖いなあー。
向後: それでパンチはね、ほぼ必ずといっていいほどフックなんですよ。
さとう: フック?
向後: パンチには、ストレートとかフックとかあるでしょ?その中のフックで、横に腕を振る殴り方です。
さとう: どうしてフックなんだろう?分かんないですね。
向後:
諸説があります。一番ややこしくて当てにならない説は、彼らは人を攻撃したいけど自分自身も攻撃してるから、こういう風(ブーメラン風)に戻ってきちゃう、って説があります。
あともう一つは、子供返り。昔の、子供の喧嘩って腕を横に振るじゃないですか。だからフックになるんだよって説があって。
一番僕がとっている説は、切れる直前にうつむいている時に力が入ってるのは内側の筋肉で、外側の伸びる筋肉にはあまり力が入っていないんです。ですから、そのまま殴ろうとすると、フックにならざるを得ない。
日本ではあまりやってないけど、アメリカでは、トレーニングで、暴力的なクライアントをどうするかっていうのを習うんです。切れる時は、ほとんどフックだから、こうやって待ち構えてるんですよ。それで、相手の腕を捕まえて、大きく回して羽交い締めにする。というようなこともやる。
さとう: なかなか女性には…。
向後: 出来ないでしょう?
さとう: 合気道か何かやってれば…。
向後: 何かやられてます?
さとう: やってないです。
向後: 運動はやられてるんですか?
さとう: 運動はダンスを少し。でもほとんどやってないですね。
向後: ブログを観させてもらったら、着物で足が上がってましたよねー。すごいな(笑)。
さとう: あははは。はい(笑)
向後:
すいません。余計なこと言って。
だから、女性はそうなったら、もう逃げることですね。
さとう: 無理でしょうね。その当事者の彼は、どういう生い立ちなのか、どういうことがあったのか分かりませんが、原因が、たまたま男女関係なのか、わがままになるってのか、どちらなんですかね。
向後:
人それぞれなので一概には言えませんが、多くの場合、彼らには、自分の欲求なり自分の言いたいことを、言えなかった歴史があるんです。だから、ある人に対しては何も言えずグッと抑え込んでしまう状況がずっとあった。
ところが、女性と付き合うと、女性は弱い立場なので、完全に自分が所有してるみたいな感覚になる。今までためてきた鬱憤を、完全に抵抗出来ない女性や子供に対して出す。
さとう: それは深いですね。
向後:
彼らをカウンセリングすると必ず言ってくるのは、「先生も奥さんを殴りたいと思ったことがあるでしょう」。僕が男だから仲間だと思い、専門家のお墨付きが欲しいという魂胆です。
そう聞かれた時に、「僕は殴ったことはありませんよ」とはすぐに答えない。それでよくやるのは、「なんでそんな質問をするんですか」「その質問の目的はなんですか」と聞き返す。そうすると、相手はムッとするんですね。
「答えてくれないんですか」と彼。
「いや、お答えしますよ。しかし、その前に質問の目的を教えてくれませんか」と僕。
それを繰り返すと、相手は段々怒ってくる。
それで、怒って、「俺はクライアントなんだ」「俺は金を払ってるんだ。カウンセラーのあんたは答える義務があるだろう」と、ワーッと声を出す。
で、僕の方が、「あなたはいつもこういう感じで、奥さんとやってるんですか?」と話を持って行く。
さとう: ふうーん。怒らせるんだぁ(笑)
向後: そう、怒らせるってのもありますね。
さとう: そうすると、ハッとなりますか?
向後: なる人はなりますね。でも、全員ではない。暴力的な人への対応は、カウンセリングの中でも非常に難しい分野なんですよ。
さとう: ドラマで、たまに犯人役をやるんです。人を殺すなんていうのは絶対に理由があるはず。誰かに裏切られた恨みがあって復讐したい。だけど、「どうしてこの人は暴力を振るったたんだろう」「どうして殺したんだろう」「突発的だったかもしれないけど理由がない」とか、いろいろ考えたりするんです。普段、ニュースとか見てても、「どうしてこんなことをしたんだろう」「何がこの人の人生であったんだろう」とか思いながらニュースとかも見たりするんですけどね。
向後: そういう役をやるのは大変ですよね。
さとう: いやまあ、善人より悪女の役の方が考えることが多いので、どちらかというと楽しいですよ。演じてる時は楽しいのですが、なんか難しいです。
向後: 基本的には、彼らのほとんどと言っていいと思うのですけど、元々自分に対して攻撃してるんです。
さとう: 他人じゃなくて…。
向後: 要するに「俺はダメだ〜」とか。
さとう: 秋葉原の事件も、そんな自分に、ですよね。
向後: 多分ね。だから常に自分で自分の体に針を刺しているみたいな感じです。
さとう: かわいそう…。
向後:
例えば、普通の人だったら「こんちはー」って肩を叩いたら、「やあ」って返事しますよね。でも、肩に怪我をしていて腫れ上がっていたら・・。
そこで「こんにちは」と肩をたたかれたら、痛いから、「何すんだ!」ってなるでしょ?
これが心の中で起こっているんです。
さとう: 繊細になっちゃってるんだあ。
向後:
そう。すごい敏感になってるところもありますね。そして、本当は外に出す怒りをずっと抑えてるものだから、バッと出てきたら、もう止められないんですね。
例えば普通の人だったら、自分の怒りをある程度は認識するじゃないですか。自分が怒っている状況というのは把握してますよね。
だけどそういう人たちというのは、怒りにもって行かれる。もう止められなくなる。では彼らに対してどうするかというと、ちゃんと自分が怒っている状態を見る目を持ちましょうということです。
さとう: 自分の怒りを客観的に見るんですか。
向後: 怒るのは悪いことではないんです。誰でも怒る権利はある。ムカツクという思いはあってもいい。だけど、それをギュッと抑えてボン!となってる状態はよくないんです。
さとう: 我慢してるんですね。
向後:
「感情をコントロールしろ」とよく言うけど無理なんです。
例えば、珠獅ウんの好きな食べ物があるでしょ?
さとう: そうですね。カニ、ソバ(笑)
向後: カニ・ソバね。「カニとソバを嫌いになりなさい」と言われても嫌いになれない。感情は基本的に変えられない。「怒るな」「怒りを感じるな」と言われても無理。コントロールするのは基本的に行動だけでいいのです。
さとう: 感情はそのままでいいが、暴力を振るうなと。
向後: そうなんです。だから、「これだけ怒っているけど丁寧に対応したよ」という形にすればいいんです。
さとう: 自分をリスペクトできますよね。「俺、偉かった」「怒るのはいいんだよ」と。
向後:
丁寧な対応でも、自分が怒ってるのを認識しながら冷静に抗議をするのでも、どっちでもいいのですよ。
よくやってしまうのは、怒りが出てきた時に「こんなことで怒るのはいけない」と、怒りを抑えようとしちゃう。
さとう: そっちだとかえってよくないんですね。
向後:
そのあとはどうなるかというと、「こんなことで怒っちゃ、俺、ちっちゃい人間だ」「なんてダメなんだろう」と、鬱になったりします。
しかし、同じ怒りでも、「俺はこれだけ怒っている」「怒る権利がある」。だけど丁寧に対応したとしたら、次には「なんて俺ってすごいんだろう」という感情になる。
こういう感覚を味わい、マスターして頂ければ、暴力は克服できると思います。
さとう: なるほど深い!